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福島県の民話

会津の雪
方言

これは、昔々の話だよ。よくおばぁちゃんが語っていたんだ。
あのな、百姓は秋の稲上げ休み(と言うのがあって)、稲刈りから始まってそとごちから皆きれいに張って土間仕舞(にわじめ)というものがあって、土間仕舞と言うのは、自分の家で食べる籾と、春夏秋と籾摺りして売る米とを分けて枡に入れて(すべての農作業が完了することだ)。(そうすると)嫁たちは実家に休みに行くことができる。普段は2泊しか泊まって来られないが、この秋の土間仕舞休みと言うのは、四つ泊まって来られるの。
そうすると、ばぁさまたちは、背中に孫がいないから、あっちから三人、こっちから三人と集まってきて、お茶のみをしていた時の事。
秋の天気のいい日、出雲の方からお坊様がいらっしゃった。
「はぁ、俺もだいぶ歩いたなぁ。このあたりでお茶を一服飲む所でもないかな」
するとちょうど、「お茶のみ処」の旗がヒラヒラと下がっている茶屋があった。
「あぁ、あったあった。一服ご馳走になろう。ばぁさん、お茶を一杯与えてください」
「はぁい、どうぞどうぞ」
お茶をもらって飲んでいたら、なんだか(店の)奥の方でガヤガヤガヤガヤ、なんか騒がしい声が聞こえてきた。
「ばぁさん、何か村で揉め事でもできたのか」
「いやいや、できたんです。とんでもないことが」
「何ができたの」
「あのな、明日、領主様が見回りに来ると言うのよ。水場でもどこでも、家の屋敷でも散らかしておくと、年貢を倍にすると(言う事だ)。いやいやいや、お父さんたちは、今年は豊作でもないのに、年貢を倍にされては、娘を売らなくなってしまうと、大騒ぎよ」
と(ばぁさんは)言った。
「はぁ、そうかそうか。それでは困ったなぁ」
(とお坊様は)考えていたが、
「はぁ、そうだそうだ。ばぁさん、俺な、明日までに雪と言うものを降らせてやるから、(奥の男たちに)そう言って来なさい。心配しないで寝なさい。(明日は)朝方になったら、寒くなるから、布団を二、三枚多く準備して寝なさいと。そう言って来なさい」
と(ばぁさんに)言った。
ばぁさまは喜んで行った。お父さんたちの所へ。
「あのな、今和尚様が来て、明日までに雪降らせてくれるから、心配するなって、そう言っていたよ」
とそう言った。
「なに、そんな貧乏和尚のすることわかるもんか。このばばぁ」
と(男たちも)言ってはみたものの、どうしていいかもわからなくて、そのまま解散となった。
そうしたら翌朝、たくさん雪が降っていた。
いやいや、屋敷の木の板も、古屋根はもちろんのこと、道路も真っ白な雪がたくさんふっているんだと。
お父さんたちも、
「はぁ、これは確かにあの和尚はただの貧乏和尚でも、物乞い和尚でもないな」
なんて言っているうちに、今度はお上からお触れが来た。
「いやいや、この雪では行かれない。延期だ、延期だ」
と言うお触れが来た。
あぁ、二重の喜びでなぁ。村の人たちはまた集まって、
「あの和尚は貧乏和尚でも、物乞い和尚でもない。ほら、早くみんなで、お礼をするから探そう」
と言う訳で、手分けしてあっちこっち探したけれど、どこにもいらっしゃらなかった。
そのお坊様と言うのが、いまでも有名な弘法大師様だったんだと。
そういう話なの。
だから、雪が降ったって、せっかくお坊様が降らせてくれた雪、寒いの暑いの、片付けるのが大変だのって言ってはならないの。

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