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福島県の民話

初夢
方言

正月の、二日の晩は初夢と言うのを見る。
その日は、こたつをおばあちゃんと(一緒に)囲んで、船を折らなくてはいけない。
わらばん紙でもいいし、新聞紙でもどんな紙でもいいから船を折って、そこへおばあちゃんが言う通りに(文字を)書かなくてはいけなかった。
なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな
(この詩は)上から読んでも、下から読んでも同じ言葉になっている。
その詩を書いて、枕の下に入れて寝る。
そうして、朝になって、
「初夢、お兄ちゃんは、どんな夢を見た?」
と聞かれると(お兄ちゃんは)、
「僕は、おじいちゃんにもおばあちゃんにも、正月に小遣いをたくさんもらう夢を見た」
と答えた。
「そうかそうか、それは良かった。それならたくさん(お小遣いを)あげなくてはいけないね」
とおばぁちゃんは言った。
「登志美はどんな夢を見た?」
(と聞いたので)
「私は、色々(な夢を)見たけれど、どんなだったかわからない」
「そうかそうか。それでもいいだろう」
と答えた。 (そうして、おばあちゃんは昔話を始めた。)
昔、この村に若い男がいた。
働き者で正直者の、うそ一つ言った事が無い男だった。
その男が、初夢に空から大判小判が降った夢を見た。
男は、
(私は(今まで)正直に生きて来たから、初夢で空から大判小判が降ってきた(のだろう)。だから、いつか(本当に)降って来るだろう)
と思った。
ところが、待っても待っても、(空から大判小判は)降っては来なかった。
そのうち雪も消えて、畑仕事へ行く季節になった。
(男が)朝起きて、(畑仕事に行くために家の外へ)出てみたら、東(の方角)の山から煙がボコボコボコと出ていた。
「これは大変だ。山火事になったらどうしようもない」
と思って、彼は鍬を担いですぐにそこへ行った。
本当に(煙が)ボコボコボコと出ていたので、
「さぁ、大変だ」
と思って、鍬で、その煙を消していた。
そしたら、(土の中で)チョコっと(音が)するから、なんだと思ったら、(土の中に)瓶が入っていた。
「なんだ、瓶が入っていたんだな」
と思って、蓋を取ってみたら、大判小判がたくさん入っていた。
「私は初夢で大判小判の夢を見た。これは私の物なんだ」
と思い、
(縄で縛って、背中に背負って(帰ろう))
と思った時に思い出した。
「いやいや、私が見たのは空から降って来た夢だった。土の中から出て来た夢では無い。今まで正直に生きてきたのに、ここで嘘をついては神様に申し訳無い」
と思って、また元通りに埋めて帰ってきた。
家に帰ると、隣の欲深いじいさんが、
「どこに行って来た?」
と聞いたので、男は
「実はこう言う訳で」
と(これまでの経緯を話した。)
「なんだ、お前、空から降って来なかったから置いて来たのか。それでは私が貰ってこよう。私は(空から降ってくるのも、土の中から出てくるのも)どちらの夢も見なかったから」
「うん、貰って来なさい」
なんて話をした。
じいさんは喜んで(思った)、
(馬鹿正直なやつだなぁ。空から土からとか関係無いではないか。大判小判を目の前にして置いて来る馬鹿がいるんだなぁ。まぁ、私は儲かるけれど。)
じいさんは、(大判小判が埋まっていると言う場所へ)行って(瓶を掘り出し)、
「本当に瓶があった。どれどれ、どれだけたくさん入っているのだろう」
と言って蓋を取ってみたら、大判小判どころか、ガラスの破片や、瀬戸物の破片、カエルやらカナヘビまで出て来たので、それはそれは怒って、
「馬鹿にしやがって。とんでもない野郎だ。よし、仇を取ってやらねばなるまいぞ」
と思って、瓶を持って、(正直者の)男の家にやってきた。そして梯子をかけて登って、煙を出すための窓から、
「大判小判が降って来たぞ!」
と(叫んで)瓶を逆さまにして(中を)開けた。
座敷で寝ていた男は(それを聞いて)、
「今度は大判小判が空から降って来たから、私の物だ」
と思って、起きて台所へ行くと、大判小判がたくさん落ちていたという話だ。
正直は一生の宝だと(人は皆)言うし、
「決して嘘をついてはならない」と言う事を教えてくれた話だ。
正月の二日に初夢を見て、翌朝三日に聞いた話だ。

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