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福島県の民話

そばの茎が赤いわけ
方言

 昔々の話だ。
山の村に、娘二人とかあさまが三人で暮らしていた。
かあさまが、
「あのな、私はちょっと用足しに行ってくるから。お前たち二人で、留守番していなさい。山から山姥と言う者が出て来るからな。決して戸を開けてはいけないよ」
と言い残して出かけて行った。
山姥は(家の側まで)来て(母親が出かけるのを)待っていたのか、しばらくすると(家の前で言った)、
「ほぉら、おかあさん帰って来たぞ。戸を開けろ、戸を開けろ」
(母親が)そんなに早く(帰って)来るはずがないと思った娘二人はな、
「私の家のおかあさんは、そんなガラガラ声をしていないよ。もっときれいな声をしているよ」
とそう言った。
「あぁ、そうかそうか」
(と答えた)山姥は、山へすっ飛んで行って、小豆入りの水をグダグダ煮て、小豆水を飲んで(戻って)来た。小豆水を飲むと、声がなめらかになるんだと。
「ほら、おかあさん帰って来たぞ。ほら、戸を開けろ、戸を開けろ」
と(山姥は)言った。
(娘たちは本当に)そうかなぁと思って、障子をちょっとなめて穴を空けて(外を)見てみたら、山姥の真っ黒い手が見えた。
「私の家のおかあさんは、そんな真っ黒の手をしていないよ」
とそう答えた。
「あぁ、そうかそうか」
(山姥は)また、山へすっ飛んで行って、麦の粉だか、ソバの粉だか、真っ白になるまで手に塗りたくって(戻って)来た。
「ほら、ほうら。こんなきれいな手だぞ。(戸を開けて)見てみろ。ほら、きれいだぞ」
娘たちも小晩方になっていたから(薄暗くて障子の穴からはよく見えなくて)、戸をすうーっと開けて見てみた。
そしたら、山姥がガラッと開けて、(家の中に)入って来てしまった。
「ほうら、お前達の事、食ってしまうぞ!」
いやもう、二人の娘達は怖くなってしまって、逃げ出した。家から飛び出して、裸足で、下駄も草履もはかないで。二人でトットコトットコ、トットコトットコ逃げ出した。
「はぁ、どこへ逃げるねえちゃん、どこへ逃げる」
(妹が姉に聞いたが)どこへ(逃げる)かもわからなくて、(やみくもに)飛んで走って逃げているうちに、ちょうどお寺の近くまで来ていた。
そのお寺の側に、大きなモミジの木があったので、
「あの木のてっぺんへ逃げよう。あのてっぺんまで逃げよう」
と二人でそのモミジの木にスルスルスルと登って逃げた。
後から山姥、
「いやいや、子供の足は速いもんだ、どこへ行った、どこへ行った」
と追いかけて来たけれど、どこへ行ったかわかなくなってしまった。
ちょうど(二人が隠れている)そのお寺のモミジの木の下に、井戸があったものだから、
(ははぁ、この井戸の中に入っているのか)
と(思って)井戸をのぞいた。ちょうど月夜の晩だったから、その井戸の中にモミジの木のてっぺんに二人で隠れている娘達の姿が見えた。(井戸水に)映っていたからな。
(なぁんだ、あの木の上か)
山姥は、木に登ろうと思ったけれど、なかなか登れなかった。
「お前達、その高い木に、どうやって登った」
(山姥が訊ねると娘達は嘘を教えて)
「おかあさんの、びんから油つけて登った」
(言った。そうと知らない山姥は)
「何、油を木につけたのか。そうかそうか」
(と言って)なたね油をドッコラショと持って来て、その(モミジの)木にぶっかけた。そしたらいくら登ろうとしても、ツルツすべって登れなくてしょうがない。
「本当はどうやって登った。私に嘘をついたら、山から山姥をたくさん連れて来て、一飲みに飲んでしまうぞ!」
と(山姥は)そう言った。そうしたら(娘たちは)、
「まさかりを持って来て、ジャッカジャッカと足場を作って登った」
と答えた。
「あぁ、そうか」
山姥はまさかりを持って来て、ジャッカジャッカと足場を作って、はぁ、ドッコイドッコイ、ドッコイドッコイと登った。登って来てその娘達の事を掴んで食べようと思った時に、娘たちは怖くなったから、
「天の神様助けてください。天の神様助けてください」
と叫んだ。
そしたら、天の神様が金の鎖をポイッと投げてよこした。二人の娘はその鎖にぶら下がって、グングングングン(空に)上って行った。
山姥は今まさに食べようと思っていた娘が、鎖に掴って上って行くから、
「私も、私にも鎖をくれ、私にも鎖をくれ」
と叫んだ。
(山姥が)くさりくさりと言ったから、天の神様は腐った鎖を投げてよこした。
山姥は喜んで、その鎖に掴ってグングングングン上って行ったけれど、腐った鎖だから途中で切れて、(山姥は)ボターンと落ちて、畑に落ちて、死んでしまった。
その落ちた畑が、ソバ畑だった。だから、ソバの茎が赤いのは、山姥のばぁさまの血だと言う事なんだ。

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