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福島県の民話

磐梯山の手長足長
方言

昔々な。磐梯山を、病脳山と言っていた頃の話だ。
その磐梯山に、手長足長と言う、夫婦がいたんだと。
足長というのは、磐梯山に登って、どぅーーっと背伸びをして、雲を掴めるほど足長だった。そうしてその磐梯山から、高田の博士山まで一跨ぎするほどの足が長かった。
手長というのはかかぁで磐梯山に尻をつけて、猪苗代の湖水の水で、かほかほかほーっ、かほかほかほーって顔を洗えるほど、手の長い、夫婦だった。
いやその夫婦がな、まぁよく、喧嘩をするんだ。喧嘩をするとな、いやいやいや、足長がな、真っ黒い雲をずっと引っ張ってきて(空を)真っ暗にしてしまってな。今度は手長のかかぁが、猪苗代の湖水から手をしゃくって、雨を降らせてしまう。
そんなものだから、昔のあのあたりは、磐梯山、今は観光客が来てきれいな建物がたくさんあるけれど、昔はそんな所は無い。いやいやいや、茅葺屋根の家があっちに二軒、こっちに一軒とまばらにあるだけだった。
(そんな土地で、ある時)ばぁさまがな、
「はてはて、昨夜は(孫の)太郎が寝小便してしまった。さぁさぁ、今日はちょっとお日様が出ているから、干しておきましょう」
と思って、布団を干し始めた。
それを山の上で見ていた、手長は、
「ほら、ばぁさまが布団を干したぞ、早く雨を降らせろ」
なんて言って(足長に頼んで)雨を降らせるんだと。雨だけならいいけれど、雨ばかりでなく、今度は(足長が)かかぁの事を叩くんだと。叩くからかかぁも怒って目玉ひんむいて稲光を起こして反撃してくるんだと。
あぁ、雨や稲光で(村の人々は)本当に困って、作物などが本当にお日様が出ないから収穫できないんだと。
村の人たちは、
「本当に手長足長と言うのがいなくなったらいいのになぁ」
と、集まるとその話ばかりしていた。
ある日そこに、お坊様がやって来た。
「俺な、この山に手長足長と言うお化けがいるそうだけれど、俺それを退治しに来た」
とそう言った。
「なんだ、この坊さん、お前そんな小さい体で、あの大きな手長足長の事なんか、退治できないから、食べられてしまうから、やめなさい。やめなさい」
「いいや、大丈夫だ。俺は大丈夫だ」
と(お坊様は村の人が止めたのも)聞かないで山へ登って行った。
そうして、あんな小さな体でどこからあんな大きな声が出るんだか。
「おぉーい、手長足長と言う者たちいるかぁ。あのなぁ、お前たちのその大きな体、俺の持って来たこの(小さな)壺に、ひょいっと入る事が出来たら、そなたたちの勝ちだからな。俺、この山から逃げていくからな。入る事が出来なかったら、そなたたちこの山から逃げて行けよ。俺はこの壺に入るんだからな」
そんな事を言っているうちに、いつの間にかその手長足長は、お坊様の持って来た壺に、二人でとぷっと入ってしまっていた。
「ほぅら、入ったぞ、坊主。入った入った。おれたちの勝ちだから、早く逃げて行け、逃げて行け」
「あぁ、そうかそうか。じゃあ待った待った。待っていろ」
と(お坊様は)言って、懐から壺の蓋をぽいっと出して、ちゃっちゃと閉めて、衣の袖を引きちぎって、壺にぐるぐるっと巻いて、磐梯山の麓に持って行って埋めて、そこに祠を作って行った。
そのあと、手長足長の夫婦が出て来ないようにと、ねんごろに、お経をあげて帰ってしまった。
それからというもの、磐梯山に手長足長が出なくなったと言う話だ。
そのお坊様は、弘法大師様だったんだと。

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