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福島県の民話

月子と星子
標準語 English French Vietnamese chinese

むがぁしむがしの話よ。
かかに死なっち月子っつう娘とな、おとっつぁん二人で暮らしていたど。
娘月子はまだな、四つ五つでな、
(はぁて、これな、男手では育てらんねぇ)
と思ってな、後(あど)かかもらったど。
そしたらそのかかも、いい女(おなご)でな、よくその先(せん)の子を面倒見ていたど。
ところが長ぐいるうち、わがも今度は女子(おなんこ)なしたど。先(せん)の子が月子だがら、我が子はな、星子とつけたど。そして、「月子、星子」って可愛がって育てていただけんじょな、おとっつぁんがな、今度は、
「おれ、ちょっと出稼ぎさ行ってくっがらな」
って、おとっつぁんのいねぇとこでな、かさまは、月子星子を可愛がって育てたど。
ところが、だんだんだんだん、娘だちがでがくなるにしたがってな、わが子がめごくってめごくってな、月子んどこ邪魔んするようになったど。
(はぁてな、この月子いねがったら、おらまぁだ、星子んどこ可愛がられるんだけんじょなぁ。なじょしだら月子んどこ、いなくしられんべなぁ)
と思って、かぁさま毎日考ぇてたど。
(はぁ、そんだそんだ、殺すしかねいわい)
だと思ってな、今度はな、毒饅頭食っちな、殺す段取りやっだど。
ほだけんじょ、子めらっちゃなぁ、月子と星子は仲がいいぐっでなぁ、星子なんか
「ねぇちゃん、ねぇちゃん」
って慕ってたがらなぁ。
かさまがなぁ、
「星子。あのな、晩げな、月子に饅頭くれっからな、にしゃは食ってなんねぇぞ。にしゃは食いてぇってずってなんねぇぞ」
と、そうずったど。
と、今度は星子はたいてい察して、わがのかさまが、ねぇちゃんどこ邪険にするようなことわがってっがらな。ねぇちゃんさずったど。
「あのな、月子、かあちゃんが晩げな、饅頭くれっけんじょ、それ絶対饅頭は食わんなよ」
「あぁ、わがった」
ってな、食わねがったと。
朝げになったら、かさまはな、月子がその毒饅頭食って死んだと思ったらな、二人(ふたん)じょ、
「おはようございます」
って出て来たから、たまげちまったど。
(はぁ、食わねがったのがなぁ。はて、今度はなじょしたらよかんべなぁ。今度は夜中にな、頭槍で突いてな、殺すしかねいわい)
と思ってな。(それを察知した星子が)小豆枕作ってな、準備したど。
そして星子がな、またずったど。
「ねぇちゃん。今日はおれと一緒に寝んべ。おれの布団さ並んで寝んべ」
ってそうずった。じゃから月子は星子と並んで寝たど。星子の布団さな。
かさまはそんな事わかんねぇ、夜んなって暗(くれ)ぇがらな、
(これが月子の枕だな。頭だな)
と思ってな、槍持って来てじゃっかりとしたら、小豆だからざくざくって音したど。
(あぁ良がった、これは良がった)
と思ってな、朝げんなるの待ってたらな、また、二人(ふたん)じょ
「おはよう」
って出て来たから、
(いやいやこれ、また昨夜(ゆうべ)も失敗しちまったなぁ。今度はなにしたらよかんべ)
と思って考えたのが、お棺さ入っち埋める段取りしただど。
いや、お棺屋頼んでお棺こしやってもらっていたど。星子もそごわかっちまったがらな
「お棺屋さん、ここんどこ、穴一つ空げといてくなんしょな」
って、お棺のすまっこさ、穴一つ空げてもらったど。
そして星子は、
「おかやん、おら、豆炒り食いだぐなったな」
「はぁ、豆炒りなのなんぼでも作ってくれるわ」
って、ころころころころ、豆いっぺぇ炒ってくっちゃど。
「団子も食いてぐなった」
「団子なの、なんの、簡単だわい」
って、団子もいっぺぇ作ってくっちゃど。
こうして今度はかさまはなぁ、村の人だつんどこさなぁ、
「あの、おら家(え)の月子、朝げに起きて見たらなんだが死んでんだがらこれ、下がっ子もあれだがら、山の麓さでも埋めてきてくんつぇ」
いや、星子はな、
(いやいや、かぁちゃんつはひでぇ人だ)
とは思ったけんじょ、月子はかさまに死われっからしょね。そのお棺さ入ってな、とんとことんとこ、蓋釘打(ぶ)って(入った)。
そして村の人たちはそんなことわかんねぇからな、山の麓さ埋めてくんなんねぇと思って行ったと。
そんとき、
「ちょっと、ちょっと、待った待った」
って星子はな、穴の脇さ胡麻種いっぺぇ入っちやったと。
そうして村の人たちはそんなことわかんねぇから山の麓さ行って埋めてきたと。
ところが星子は毎日毎日、心配(しんぺぇ)で、しょねかったど。
(今ころねぇちゃん、豆は食って、団子は食ってはいたべけんじょ、今ころ死んちまってんではあんめかなぁ)
と思って毎日心配(しんぺぇ)してたら、胡麻種が穴からぽろぽろぽろぽろと落ちて芽ぇ出たから、その後(あど)辿って行ったど。
そしたら山の麓に小高くなってたどこさ胡麻がいっぱい出てたから、そこを一生懸命手でかっぽっていたど。
ところが、子めらの手ではなぁ。
そごさ、ちょうど鉄砲撃(ぶ)ちが来て、
「なにやってんだぁ」
「ここにねぇちゃんが埋まってんだぁ。ねぇちゃんが埋まってんだぁ」
って言ったら、
「そうか、そうか」
って、大急ぎで掘ってくっちなぁ。
そうしてお棺の蓋空けてみたら、いや月子は痩せこけ果てて、そんでも豆と団子でな、息つないでたんだべなぁ。生きったど。
「いやぁ、良かったなぁねぇちゃん、良かったなぁ」
ってな、星子は、
「ねぇちゃん、家(うち)さ帰んべ。こんどは、おれがかぁちゃんさようく言うから、家(うち)さ帰んべ」
そうずっと月子は、
「いやぁ、絶対家(うち)さは帰んね、帰んね」
とずうわけ。
「帰んねで、後(あど)どうすんの」
「このへんでどっか家でももっこり家(うち)でも何でもいいから探して、泊まられるとこがあったらそこでおれは暮らすから、おめぇはおかやんが心配(しんぺぇ)すっから、帰れ」
「いやぁ、ねぇちゃんが帰んねぇなら、おれも帰んねぇ」
そうして二人(ふたん)で歩って、家探ししてたら、ほったて小屋みてぇなのあったど。そこで二人(ふたん)で暮らしていたど。
今度は、家のほうでおとっつぁんが出稼ぎから帰ってきたど。
「なんだ、月子と星子どこさ行った」
「おめぇはいつまでも帰ってこねぇから、『おとっつぁん捜しに行ぐ』だって、二人(ふたん)で出かけてから、これ、あれからずーっとこねぇだよ。どごにいんだが、おら困っちまったぁ」
なんて、かさまはずってんだど。
とっつぁまはなぁ、それこそ月子と星子に会いてぇと思ったんだべぇ。
「よぅし、そんじゃおれ捜してくっからぁ。捜しに行ぐがらぁ」
って、鉦打(ぶ)って出かげたどぉ。
月子ぉ どごだぁ 星子は どごだぁ かーんかん
はぁ 月子は どごだぁ 星子は どごだぁ かーんかん
って鉦打(ぶ)ち打(ぶ)ちなぁ、行けども行けども、なかなかいっちゃぁねぇからなぁ。おとっつぁんは泣いて泣いて、今度は目が見えなくなっちまったど。目は見えねぇけんじょ、月子、星子と鉦打(ぶ)って歩って、ちょうどその月子と星子が暮らしているほったて小屋の前(めぇ)さ来たど。
そしたら月子と星子が、月子、星子ってずってんから、
「あっ、おとっつぁんだよ。おとっつぁんだよ」
って二人(ふたん)で飛び出したんだと。
「月子だよぅ」
「星子だよぅ」
と、おとっつぁんがなぁ、
「いや、おれなぁ、あんま泣いて目が見えなくなっちまったぁ」
とそうずったと。そしたら、月子の涙が左目、星子の涙が右目さおとっつぁんの目さ入ったと。そしたら、ぱらっと開いたと。
「はぁ、よかった、よかった」
って、そこで三人でな、いろいろ物語りやって、そしておとっつぁんは、
「ほら、今度はおれがいんだからだいじょぶだぁ、ほら、一緒に帰んべ、帰んべ」
だけんじょ、月子は、
「絶対帰んねぇ」
っつうんだと。
「ねぇちゃんが帰んねぇだらば、おらも帰んねぇ」
「にしゃだち、帰んねでどうすんだ」
月子は、
「おれは、天さ昇ってお星様んなるぅ」
っつうんだ。そしたら星子も、
「ねぇちゃんが月さ昇って星になんだら、おれも星になる」
月子は宵の明星、星子は明けの明星となったど。
そしたら、それ聞いておとっつぁんな、
「にしゃだちが空さ昇って月と星になんだら、おれも天さ昇って太陽になるわぁ」
って三人でな、いっしょ、いちにのさんで天さ昇って、おとっつぁんは太陽、月子と星子は星になって、天で暮らしていたど。
ところが、家さ残ってたおかやはなにになったと思うよ?土竜もちになっちまったんだと。んじゃから、土竜もちは、目が見えねぇべしさ?土んながさいんのは、継子いじめしたので、目が見えなくなっちまって、土んながにいんなんねぇつうことなんだと。

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