maintop

福島県の民話

みしらずの柿
方言

昔々の話だ。
子供のいないじいさまとばあさまがいた。酒が好きで、何かにつけて二人で酒を飲んでいた。昔は皆どぶろくを作って飲むからな。
ばあさまが(言った)、
「おーい、じいさん。私たちいくら子供がいないからって、正月は(ちゃんと)年取りをしよう。暮れに年取りをやらなくてはいけないね。(喜多方市)小荒井へ行って、(鮭の)塩引きでも買って来たらいいんじゃないか」
「そうか。そうだなぁ。年取りはやらなくてはいけないな。では行って来よう」
と(じいさまは)小荒井へ出かけて行った。
小荒井へ行って、小ぶりの塩引きを買って、正月用にするめを買ったり、昆布を買ったりと、ばあさまが喜ぶようにと思って買った。そしていつも盛り切り酒を飲む所できれいなコップ酒一杯飲んで。いつもどぶろくばかり飲むから(たまにはいつもと違う酒が飲みたくて)なぁ。その茶屋で白い酒、きれいな酒を飲むのがじいさまの楽しみだった。
一杯飲んで、帰ろうと言う風になって、帰る途中、村の前まで来たら、なんだか、道端で、クンクン、クンクンって言う音がする。
はて、不思議だなと思って(音のする方へ)寄り、草を分けて見ると、小さい子犬が一匹捨てられていた。
「はぁ、お前、たくさん生まれたからと捨てられたのかぁ。まぁ気の毒だ。もう年取りだと言うのになぁ。よしよし、俺が育てよう」
(じいさまは言って、)自分の懐に子犬をポイッと入れて、家へ帰って来た。
だけれども、帰って来てから、はてはて、考えてしまった。
(犬は大きくなると、人間ほどご飯を食べると言うから、俺がこの犬を家へ入れて(育てて大きくしたら)、人間ほどご飯を食べて、酒が造れなくなってしまうのではないか。ばばぁに怒られてしまうなぁ。はて困った。どうしようかな。元の所に置いてくるかな)
と、(じいさまは)木小屋で思案していた。帰って来てまず木小屋に入っていたので。
晩方になったので、ばぁさまが木小屋へ、木を取りに、焚き火の木を取りに来た。
「あらら、じいさん。帰って来ていたの」
「うん、帰って来たけれど。実はこういう訳なのよ」
「うん?どういう訳?」
「こういう訳」
(じいさまは子犬をばあさまに差し出した)
「あぁ、子犬を拾って来たのね。どれ、見せてみなさい。いやいやいや、なんと可愛い子犬だよ。私たち、子供もいないのに、犬一匹扱えないなんて言ってられないよ。あんた、連れて一緒に行こう」
「はぁ、そうかそうか。それじゃあ良かった良かった」
なんて話をして、(犬を入れて)三人で、少しばかり残っていた小豆で、小豆ごはんを炊いてそれを食べた。
そうして、子犬にコロと名前をつけたから、コロ、コロと呼んで可愛がって育てていた。
コロも大きくなって、じいさまが畑へ行けば付いていく。ばあさまが家のあたりにいれば、ばあさまの周りをグルグルーッと(回って)遊んでいた。
ところがその夏、犬の流行り病が来た。(コロは)ころっとうつって死んでしまった。
じいさまとばあさまは大層悲しんで、
「なんで死んでしまったんだ。なんで死んでしまったんだ」
と言って(泣いた)。
「ばあさん、コロ気の毒だから、屋敷の畑に埋めよう。そして俺たち毎日お参りに来よう」
(とじいさまが言って)そういう事になった。
(二人は)屋敷の畑の、隅っこにコロを埋めて、毎日お参りしていた。
そうしているうち、そこにいつの間にか柿の芽が見えていた。
「はぁ、ばば、ばば。これ(柿の芽)。コロのやつが柿を生やしてくれたから、柿育てて食べなさいと言う事だぞ。肥料をやって、水をやって育てよう」
じいさまとばあさまは一生懸命、肥料をやり、水をやった。時期になったら、大きな木になり、赤い柿がたくさんなった。
「ほらほら、ばば。この柿ほらコロが生やしてくれた柿だから、食べてみよう」
(じいさまが言ったので、二人で)もいで食べてみた。
そしたら(その柿が)とても渋かった。
「いやいやいや、ばば、ばば。コロのやつ、どうせ生やしてくれるなら、甘柿を生やしてくれれば良かったのに。こんな渋柿ではしょうがない。畑にこのまま(木を)生やしておけば、(木の)下の作物が日陰で育たなくなってしまうから、切るしかないなぁ」
と(じいさまが)言って、
「そうだなぁ。それでは今日切ってしまおうか」
(ばあさまが答えて)と言う訳で、ナタ持って来い、まさかり持って来いって(言い)、切ろうと思ったけれど、ばあさまが
「じいさん。柿とのお別れにここで酒盛りでもやろうか?」
(と聞いたら、じいさまも答えて)
「はぁ、そうだそうだ。お前なんて良い事に気付いたな。では、むしろを持って来い」
と言って、むしろを柿の側に敷いて、酒樽を持って来て、どぶろくの大きいのをドッコラショと担いで来て(酒を飲んだ)。
「ばあさまもほら飲め」
「じいさまも飲め」
「柿の木も切ってしまうんだから、柿にもあげよう」
と、柿の根っこにドドドーッとどぶろくの酒を流した。
「ばばも飲め」
「じじも飲め」
と(二人は)あんまり飲んだから酔っぱらってしまって、朝までそこで寝てしまった。
じいさまは驚いて起きて、
「ばば、ばば。俺たちここで寝てしまった。早くまさかり持って来い、ナタ持って来い」
と言っているうちに、柿が一つポタンと落ちた。
「あぁ、この柿は可哀そうだ。今から切られてしまうんだから食べてくださいと言う事だから(渋いとわかっているが)食べてみよう」
その(落ちた)柿を食べてみたら、ものすごく甘かった。
それから、身不知柿と言う会津特産の柿は、焼酎をかけてしみこませると言う事になったそうだ。

maintop