むがぁしむがしの話よ。
あのなぁ、子めらのいねぇじさまとばさまがいたど。酒ぇ好きでな、なにかにつけて二人で酒ぇ飲んでたと。ほらぁむかしは皆どぶろく作って飲むからな。
ばさまがなぁ、
「おーい、じさん。おれだちなんぼ子めらいねぇつったって、正月の年取りやっぺ、暮れに年取りやんなんねぇねぇか」
「なぁんか、小荒井(こあれ)さ行って、塩引きでも買ってきたらいいんねぇが」
「そぉかぁ、ほだなぁ。年取りはやんなんねぇなぁ。じゃあ行って来(こ)んべぇ」
って小荒井(こあれ)さ出かけていったどぉ。
小荒井(こあれ)さ行ってなぁ、小ぶりの塩引き買って、そうしてするめ買ったりな、昆布買ったり、ばさま喜ぶようにと思って正月用に買ってな、今度はいつももっきり酒飲むどごでな、きれぇなコップ酒飲んでいっぺぇ、いつもどぶろくばっか飲むがらなぁ、その茶屋で白い酒、きれいな酒飲むのがじさまの楽しみだったと。
いっぺぇ飲んで、帰り足になって帰りはじめたと。そしたら村前(むらめぇ)まで来たらな、なんだか道端に、クンクン、クンクンって音すんだとぉ。
はぁて、ちてぇだなど思って寄ってな、草分けて見たらな、ちぃーちぇぇ犬ころ一匹捨てられっちいだと。
「はぁ、にしゃ、いっぺぇ生まっちゃがら捨てらっちゃのかぁ。まぁー気の毒でいま年取りになっつうのになぁ。よしよし、おれ育てんべ」
なんて今度は我がの懐さぽいっと入っちな、帰ってきたと。
んだけんじょ、帰って来てなぁ、はぁてはて、考ぇちまったど。
（犬はでっかぐなっと、人間ほどまんま食うっつうがら、おれ、この犬、家さ入っち、人間ほどまんま食ってたら、酒造んようねぇぐなっちまうんでねぇあんめな。ばばぁに怒らちまうべなぁ。はぁて困った、なじょすんべな。元んどごさ置いてくっかぁ）
って分別してたど。木小屋にいたがらなぁ、木小屋さまず入って考ぇてだがら。
そうだから木小屋だからばあさま晩方になったがら、木ぃ取りさ、焚き物取りさ来たど。
「あららじいさん。帰って来ったの」
「うーん、帰って来ったけっじょ。実はこうづうわけよ」
「うん？どうづうわけ？」
「こうづうわけ」
「あぁー、犬ころ拾って来ちゃって。どうれ、見せてみっせ。いやいやいや、なんつうめげぇ犬だよ。おいら子めらもいねぇの、犬ころ一匹あづかいようねぇなんつってらっか、おめ。連(つ)っちやばせ、連(つ)っちやばせ」
「はぁ、そうかそうか。そんじゃ良かった良かった」
なんてな、はぁ三人でな、小豆ちっとばっか残ってだがら、小豆まんま炊いてまんま食ったど。
そうしでな、はぁコロと名前(なめぇ)つけだがら、コロ、コロって可愛がって育てていたど。
はぁ、コロもでがぐなってなぁ。じさまが畑さ行けばくっ付いて行ぐ。ばさまが家のあたりにいれば、ばさまの周りをぐるぐるーって遊んでいたど。
ところがその夏な、犬のはやり病気が来たと。ころっと伝染(うつ)って死んちまっただと。
じさまとばさまはたいそう悲しんでなぁ。
「なんで死んだだぁ、なんで死んだだぁ」
ってな、
「ばぁさん、これ気の毒だから屋敷の畑さ埋めんべ。そして今度はおれだち毎日お参(めぇ)りさくんべ」つうことになったど。
屋敷の畑さなぁ、隅(すま)っこさコロ埋めて、毎日お参(めぇ)りしったど。そしたらそこさいつのまにか柿の芽が見えてたと。
「はぁ、こら、こら、ばば、ばば。これ、コロのやろ柿生(お)やしてくっちゃから、柿育てて食えっつうことだぞ。ほら、肥料(こやし)くっち、水くっち育てんべ」
じさまとばさま一生懸命なぁ、肥料(こやし)くっち、水くっちゃら、節(せつ)んなったら、でっがい木になってなぁ。赤ぇ柿がいっぺぇなったど。
「ほらほら、ばば。この柿ほら、コロが生(お)やしてくっちゃ柿だから、ほら食ってみんべぇ」って、もいで食ってみたど。いや、そしだら、渋いだど。
「いやいやいやいや。ばば、ばば。コロのやろ、どうせ生(お)やしてくれんだら、甘柿生(お)やせば良かったのに。こんな渋柿ではしょね。畑さこのまま生(お)いとけば、下の作物、日陰で育たなくなっちまうがら、切るしがねぇなぁ」
っつうわけだ。
「そうだなぁ。ほんじゃ今日は切っちまうが」
つうわけで、ナタ持って来い、よき持って来いってな、切んべと思ったんだけんじょな、ばさまが、
「じさん、柿とのお別れにここで酒盛りでもやんねが？」
「はぁ、そうだそうだ。にしゃなんつういいこと気付いたな。じゃ、むしろ持って来」
なんてむしろをそこさ敷いでな、そうしてな、酒樽持って来て、どぶろくの大きいのどっこらしょとたがって来てなぁ、
「ばさまもほら飲ませ」
「じさまも飲ませ」
「柿の木も切っちまうんだからなぁ、柿さもくれんべぇ」
柿の根っこさ、どどどーっとどぶろくの酒、流したど。
「ばばも飲め」
「じじも飲め」
ってあんま飲んだから酔っぱらっちまって、朝さきまで寝ちまっただと。
じいさまたまげて起き、
「ばば、ばば。おいらここさ寝ちまった。早くよき持って来い、ナタ持って来い」
なっつってるうちに柿が一つポタンと落ちただと。
「あぁ、これ柿可哀そうだ。今切られんだから食ってくんちぇっつうことだから食ってみんべぇぞ」
その柿食ってみたらものすごく甘かったんだど。
それがら、身不知柿(みしらずがき)は、焼酎でさわして食うっつうごどんなったんだど。
はい、ざっとむがしざけぇもうした。 |
