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福島県の民話

年とっちゃぐねぇ男
方言

暮れになると、三十一日は年取り(みんな揃って一つ年を取る日)だ。その日に、
「なんで年取りなんてするの。年なんていらないしなぁ」
と言ったら、うちのおばあちゃんが、いやいや、こんな話があるんだよって、語ってくれたんだなぁ。 昔々、この村に、年を取りたくないと言った若い男がいた。
「俺、このままお年寄りになりたくないなぁ」
なんて言っていたんだ。
年取りの晩になって(男は)、
「はて、神様は家の中に来るのだろう。押入れにでも隠れていたらわからないかなぁ」
と言い、押入れに隠れていたんだけれど、
(いや、神様は家の中に来るのだから、押入れだってわかってしまうだろう。そうだそうだ。外へ行った方がいい)
と思い、外へ行き、
(はて、どこに隠れようかなぁ)
と思いながらあっちこっち歩いていたら、昔の村々には、(皆で使用する)大きなゴミ箱があったんだ。ここがいいと(男は)ゴミ箱の中にトップラと入った。
さて、年神様が来た。
「あぁ、我ながら(人間に配る年を)たくさん背負って、一軒一軒、俺は村を回ったなぁ。あぁ、この家は三人か、なんだ、寂しいなぁ」
なんて言って(年を配っている)。
「あぁ、この家は、あぁ十人もいたのかぁ。これは良い事だ、良い事だ。ますます繁盛、繁盛」
なんて、(村中)皆に年を配って歩いた。
ところが、その年は、何でだか、計算違いでもしたのかなぁ、年がたくさん余ってしまった。神様は、
(いやぁ、年は重たいのに、また背負って帰るのでは大変だなぁ。誰もいない、分からない所に捨てていけないかなぁ)
と思いまた村に戻り、(いい場所は無いかと)歩いていたら、丁度その(男が隠れている)ゴミ箱があったから、その箱に、パサパサパサパサーっときれいに中身を空けてしまった。
「あぁ、軽くなって良かった良かった」
と言って、神様は帰って行った。
ところが、翌朝になって、そのゴミ箱の中に隠れていたあの若い男(どうなったか)。
「いやいやいやいや、俺年いらないなんて失敗したなぁ。いやぁ、いらないなんて言わなければ良かった」
と言って(ゴミ箱から)出て来た若い男が、なんだか顔はしなびた梅干しみたいになって、腰が曲がって棒を使わないと歩けないような格好になってしまっていた。
「あぁ、失敗した、失敗した。年なんかいらないなんて、言わなければ良かった」
と言って、出て来たんだ。 そんな話があるから、
「いいかぁ、年いらないなんて、言ってはならないよ。せっかく神様が下さる年だから、ありがたく頂戴して、そうして良い花嫁にならなくてはいけないよ」
と教えてくれた話だ。

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