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広島県の民話

子狐の恩返し

広島県県北三次市の話し。
むかし、むかぁし、暮らしは貧しいが心のとても優しい働き者のひでさんというお爺さんが、山の麓に住んでおった。ある日の夕方、爺さんが山から木を背負うて帰りよったら、藪の中から鳴き声が聞こえる。
「誰じゃろうかのぉ。あの痛々しげな鳴き声は。おーい、どぉしたんじゃあ。どこじゃあ。うーん、確か、この辺りから聞こえてきたがのぉ。」
「た、助けてぇ。痛い。痛いよぉ。」
「ありゃあ。子狐じゃなぁか。かわいそうに。足を怪我したんか。おーよしよし。泣かぁでもええ。泣かぁでもええ。」
「おっ母が病気で寝とるけぇ、木の実を採って食べさせよう思うてーえーんえええーん。切り株に躓いてから、うーんうーんうーん。」
「おーおぉ、そぉか、そぉか。そりゃあ、かわいそうに。薬ゃあ、持っとらんけぇ、ひで爺の唾、つけちゃろうの。チチンプイプイ。こうすりゃあすぐ血が止まるけぇの。あーあぁ、そうじゃ。わしの手ぬぐいさぁて包帯にしちゃろう。」
「ありがとう。これでおっ母に木の実を採って帰れるぅ。」
「あぁ、心配せんでもええ。わーしがの、木の実を採っちゃるけぇ。持って帰れや。」
「わぁ、やっぱりひで爺は噂の通りええ人じゃのぉ。」
「さぁさそれ、おっ母とお前の分もあるでぇ。子狐や、おっ母さんを大事にのぉ。」
「ん、ひで爺、ありがと、ありがと。」
「なぁんの、なぁんの、ハッハッハーいやぁ、喜んで帰りよるわい。なぁんと親孝行な子狐じゃのぉ。はよぉ足が治りゃあええがのぉ。」
子狐は、振り返り、振り返りしながら帰って行った。
それから4~5日経ち、ひで爺さんが山で木を切っていると、
「ありゃあ。お前はこなぁだ、足を怪我ぁした子狐じゃあなぁか。どうじゃ。足は治ったかぁ。」
「ん、こないだ、ありがと。お陰でおっ母の病気も治って、わしの足も、ひで爺の唾で。これを見てくれ。きれーいに治った。今日は、おっ母のおつかいで来た。せぇでひで爺さんを、一遍わがたえ連れて戻れぇゆうておっ母がゆうけん。わがたへ来てつかぁさい。」
「おっ、そぉかい。あ、そぉかい。おっ母さんの病気が治って良かったのぉ。ほいじゃあ、早速わしを、おっ母さんのところへ連れてってくれるか。」
「ひで爺、わしの手をしっかり握っとってくれ。足元を気を付けてくれんさいよ。獣道を通っていぬるけぇの。」
「アーハハハ、よしよし。そがぁに急ぐな。転げるで。あぁ、あぁ、わしも何やら、心が弾みだぁた。アーハーハ、お前と一緒じゃと、楽しいのぉ。ハハハハハ。」
「おっ母。おっ母。ひで爺が来てくれんさったでぇ。」
「まあ、まあ、ひで爺さん。よぉおいでなさいました。こないだは、子供をよぉ助けてつかぁさった。お陰でうちも病気が治りましてねぇ、ありがとありました。せぇで今日来てもろぉたのは、ひで爺さんにお礼がしとぉて、うちらがだーいじにしとる、この赤い頭巾を差し上げますけぇ、受け取ってつかぁさらんかのぉ。」
「いや、あんたらがそんとに大切にしとる赤い頭巾、わしがもらうわけにゃあいかんよぉ。」
「いやいやこの頭巾をかぶりゃあ、何でも聞こえますけぇ、へぇじゃけぇ、ひで爺さんにどぉしてもつこぉてもらいたいですけぇ。」
「のぉ、ひでじいよ。おっ母もあぁゆうとるけぇ、もろぉてくれぇよ。えぇことがあるけ。」
「そぉかい。まぁ、ほいじゃ、ありがたぁく頂戴するかぁ。すまんのう。すまんのう。」
「ひで爺さん、いつでも遊びに来てくれんさいのぉ。」
ひで爺は山の麓まで子狐に送ってもらい、わがたへいんだげな。ひで爺は家へ入って早速赤い頭巾がどがぁなものか被ってみた。
「ありゃあ、こりゃあ、どーしたことかいのぉ。祭囃子が聞こえる。」
「ピーヒャララ、ピーヒャラ、ピーヒャラ、ピーヒャララー。」
「ありゃあ、ありゃりゃりゃ、話し声も聞こえてきた。うふー、なになに。」
「ピ、ピ、ピーヒャララ。ピーヒャララ。テンツクテンツクテンテンテン。あのぉ、なんじゃげなぁ。山の麓のひで爺とこの、松の木の根元にゃあ、小判が埋もっとるげなでぇ。」
「うんーん、うんーうんー。確かにうちには大きな松の木があるわ。ははぁ、この頭巾が教えてくれたんじゃろぉかの。よっしゃ、掘ってみちゃろ。」
早速ひで爺は、裏の松の木の根元を掘ってみたげな。へぇたら、大きな壺が出てきた。蓋開けてみると、中にゃ小判がぎっしり。
「うわぁあー、こりゃあ、ありがたい。早速、食うにも困っとる、村のみんなに分けてゃろ。ありがたいのぉ。ありがたい。ありがたい。」
ひで爺は、壺ごと村のみんなに分けた。ほいで、獣道を通って狐親子にお礼を言いに山へ入った。
「子狐やぁい。子狐やぁい。会いに来たでぇ。おっ母さんやぁ、おってかいのぉ。頭巾のおかげで村のみんなが助かったぁ。きーつねさんや、ありがとうのぉ。ありゃあ、留守かいの。元気になって、親子で遊びに行っとるんじゃろうかの。お礼に思うてあぶらげを持ってきたんじゃがの。留守ならしょうがない。まぁ、ここへ置いて帰ろうかい。ほいじゃ、また来るけぇのぉ。」
ひで爺は持って来たあぶらげを置いて、山を下りたげな。
それから、ちぃと日が経って、ひで爺は、また不思議な赤い頭巾を被ってみた。すると、また聞こえよる。
「ピ、ピ、ピーヒャララ。ピーヒャララ。テンツクテンツクテンテンテン。なんとのぉ、なんじゃげなぁ。町の長者が、立派な屋敷を建てたんじゃげなぁ。ところがどぉしたことか、一人娘が重ぉい病気にかかっとるげなぁ。ありゃあ、なんじゃあ。屋敷の下に埋もっとる、樫の木の祟りじゃげなぁ。」
それを聞いたひで爺は、早速長者のところへ行って、樫の木を掘り出すように教えてあげたげな。長者は早速樫の木を掘り出し、屋敷のそばに植え替えた。樫の木は朝日を浴びてぐんぐん大きゅうなり、葉は風にそよいで、小鳥も
「ピーチクピーチク、ピッピー、ピー」
と遊びに来た。娘さんも元気になり、ひで爺は我がことのように喜んだげな。ひで爺は早速礼を言うため、山奥の狐親子を訪ねた。
「狐さんやぁい。おーい。子狐やぁ。おーい。教えてくれた獣道を通って来ましたで。おってかいのぉ。ありゃあ、今日も留守かぁ。ほいじゃぁまた、お礼のあぶらげと大事な、だーいじな赤頭巾を、これぇ置いとくでぇ。あれもこれもみぃんな親子狐のおかげじゃぁ。達者でのぉ狐さんやぁ。」
ひで爺は、振り返り、振り返りわがたへいんだげな。
今日も元気にひで爺さんは、深ぁい深ぁい山の中で子狐を待ちながら、木を切りよるげな。
むかし、むかぁし、こっくりこ。

紙芝居サークル
陽だまり
2013年11月26日
土井淑子様 朗読
土井淑子様 

ご協力ありがとうございました。     

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