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広島県の民話

毘沙門さんのお福

広島市安佐南区の話し。
むかぁし、むかし、そのまた昔。緑井の里に、はなという娘が、年老いたおっ母さんと2人で暮らしとったげな。はなは、村でも評判のべっぴんさんのうえに働きもんでのぉ、ちぃとの田畑を朝はよぉから、くろぉなるまで、野良仕事に精出しとったんよ。はなは、体の弱いおっ母さんの面倒をよぉみてのぉ、どこへ行くんもついて行きよった。村の人たちは、みぃんな、
「はなちゃんはええ子じゃのぉ。」
と、言いよった。おっ母さんは、
「のぉ、はなや。いつもすまんのう。お前も年頃じゃに、ええべべも着たかろうに、嫁にもいきたかろうにのぉ。このわしにかいしょがないけぇ、ごぉばっかりかけてすまんのぉ。わしゃあいっつも毘沙門さんに、どうかこの子に福をやってつかぁさい。幸せにしてやってつかぁさい。ゆうて、朝晩お願いしよるんじゃあ。」
と、口癖のように言いよった。はなは、
「お母ちゃん、そんとにごぉいりんさんな。うちゃあ、しゃーないけぇ。」
ゆぅて、いっつもわろぉとったげな。
へぇからぁ何年か経ったある年、大雪の降った正月が過ぎての、待ちぃに待った初寅さんがやってきたんじゃ。初寅さんゆぅなぁのぉ、緑井村の岩谷の里にある毘沙門さんの縁日のことで、もぉりの人ばっかりじゃのぉて、広島の方の人や、もっと遠くの四国の方からもいっぱい人が来んさるんよ。まぁ、正月より楽しみにしてねぇ、泊まり込みでいっぱい来んさるんよぉ。そりゃあそりゃあ大した大賑わいで、屋台もえーっと出るし、参道も人、人、人の山になるんじゃ。それゆうのもの、昔から、毘沙門さんの初寅の日にお参りしたら福が授かる。と、言われとるんじゃあ。
初寅の日の朝、はなはいつものように畑に出て、野良仕事に精出しとった。そこへ、この村の村長の息子の清助が通りかかった。清助は、はなとは幼なじみで、前からべっぴんで働き者のはなが好きで好きでかなわん。ほいじゃがのぉ、恥ずかしゅうて言えんかったんよぉ。今日もひょっとして、はなに会えんかのぉ。と、思い思い、毘沙門さんにお参りするところじゃった。
「はなちゃーん。あんたぁ、初寅さん行かんのんかぁ。」
「うーん、うちゃあ行かんのんよぉ。おっ母さんが、ちぃと具合が悪いけぇ。」
「そりゃあ、悪いのぉ。ほんならわしがはなちゃんの代わりに、毘沙門さんにお参りして、福をもろぉてきちゃろぉ。」
清助はの、はなと約束ができたんが嬉しゅうて、急な坂道を大勢の人をかき分けかき分け息を切らしながら登って、毘沙門さんにお参りをした。境内には福石という大きな岩が祀ってあるんじゃ。大きく両手を広げて、この石の端と端に手の先が届いたら、毘沙門さんの福が授かる。幸せになれる。と、昔から言われとるんじゃ。清助は石に向かって、両手を力いっぱい広げたんよ。
「届いた。届いたぁ。」
清助の両手が福石に届いた。今まで一遍も届かんかったのに、今年は届いたんよぉ。清助は大喜び。胸が熱ぅなって、ふわぁっとしてきよった。これが福なんじゃー。と、嬉しゅうて飛び上がった。さぁて、清助はのぉ、この胸の熱ぅてふわっとしたものを、はなちゃんにどがぁして渡したらええんか迷いながら坂道を下りとったら、その時、そばの竹藪の中からのぉ、
「ニャーオ。ニャーオ。ニャーオ。」
と、可愛い鳴き声がしてきたんじゃあ。清助が竹藪の中にそーっと入ってみたら、子猫が3匹鳴いておった。そりゃあそりゃあ可愛い子猫で、その目はキラキラ輝いて愛らしゅうてのぉ、清助は思わず懐の中に入れよった。
「おーおー、可愛いのぉ。あったかいのぉ。そうじゃ、これをはなちゃんに持って帰っちゃろう。」と、清助は急いで山道を下りたんじゃ。
「はなちゃん、福をもろうてきたけぇ、大事にしんさいよぉ。」
ゆうて、清助は、はなにおひつに入れた猫をのすけて帰ったそうな。はなは、清助さんに福をもろうたんが嬉しゅうて嬉しゅうて、大事に大事におひつをおさめとった。ほいでものぉ、はなは、おひつの中に何が入っとるんか気になってしょうがないんよ。
あくる日、そーっとおひつの蓋を開けて、中を覗いてみたんじゃ。まぁ、びっくり。キラキラと眩しい大判が3枚、おひつの中で輝いとった。
「おっ母さん、おっ母さん、はよ来て。清助さんが大判3枚の福をくれちゃったよ。」
おっ母さんも見てびっくりじゃ。大判3枚とゆうたら、今じゃったら、新しい家や車がいっぱい買えるんよ。清助が、はなに、大判3枚の福をあげたんじゃげな。とゆう噂は、あっという間に村中に広がったそうな。この噂を聞いてびっくりしたのが、清助。いやいや、もっとたまげたのが、清助の父親の村長じゃった。
「清助。ほんまにはなさんに大判3枚もあげたんかぁ。おまえ、どこにそんとな大金持っとったんかぁ。」
と、顔を真っ赤にして、清助を厳しゅうに問い詰めた。
「いーやぁ、ありゃあ大判じゃなかったんじゃあ。目のきれいな子猫じゃったんじゃあ。毘沙門さんの福じゃゆうて猫をはなちゃんにあげるなぁ、ちぃと恥ずかしぃけぇ、おひつに入れて黙って渡したんじゃあ。あれが大判なっとるたぁ、わしゃーいっこも知らんかったんよぉ。嘘じゃないけぇ。」
清助は一生懸命答えた。村長は、
「うーん、不思議なこともあるもんよのぉ。こりゃあ、日頃のはなさんの行いを毘沙門さんが見とっちゃって、はなさんに福をあげちゃったんじゃろう。清助もはなさんを好いとるようじゃけぇ、うちの嫁に来てもらおう。これぐらいええ縁は、そうそうあるまいけぇのぉ。」
と言って、清助とはなとの結婚を許したげな。
ほいからのちに、大判の光を浴びたおっ母さんは、病気もすっかり治っての、清助とはなは、村のもん、みぃんなに祝福されながら結婚し、末なごうまめに暮らしたげな。
めでたし、めでたし。むかし、けっちりこ。

紙芝居サークル
陽だまり
2013年11月26日
岡志子様 朗読
 岡志子様

ご協力ありがとうございました。     

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