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広島県の民話

ツルとカメ

旧賀茂郡豊栄の話し。
田舎の方では昔、渡り鳥のことを、ツルとゆうていたそうです。ツルゆう鳥は珍しいことに1度も抜けん羽が1本だけあるんじゃそうです。ほとんどは生え変わるんでしょうが、たった1本だけ抜けんのがあるんじゃそうです。
さぁて、むかぁし、むかぁし、道端でツルが遊びよったでな。
へぇたらどんがめがやってきてのぉ、ツルにゆうたげな。
「あんた、ええのぉ。スイスイスイスイ、高ぁところを飛びんさるが、わしゃあ羨ましゅうて、羨ましゅうてこたえられんがのぉ。」
と、ゆうたげな。せぇたらツルが、
「せぇでもなんじゃ、おまえを高ぁところへ連れて上がることは出来んでぇ。」
「わしゃぁ、あんたが羨ましゅうていけんのよぉ。」
ゆうてどんがめが、やっぱりしつこーにゆんじゃげな。ツルは、ひとがええけ、
「へえじゃぁのぉ。わしにゃあ、いっそ抜けん羽が、せなに1本あるけぇ、それをくわえてさばっとれ。ほいで、ものをゆうたらいけんので。羽をくわえとって、ものをゆうて、はなぁたら落ちるんどぉ。絶対はなすなぁ。」
と、ゆうたげな。ほいからどんがめは、ツルの羽をくわえたんじゃ。せえたらツルは、さーっと上へ舞い上がったげな。どんがめは、ツルの羽を一生懸命くわえとったげな。どんがめは喜んで、スイスイスイスイ舞うんじゃげな。山も川も家も、ちいそぉに一遍に見える。スイスイスイスイ空を舞うんよ。嬉しゅうて嬉しゅうて、
「わぁ、お城が見えた。」
スイスイスイスイ、
「あぁ、海も見えた。嬉しい嬉しい。」
それを下からみつけた、その辺のがんぼうらが、
「おーい、あれを見い。ツルが何やらつかまえて飛びおるでぇ。なんやありゃあ、んーっ、どんがめじゃあ。わぁ、あれを見い、わろおちゃれえ、どんがめがツルにさらわれていきよおらぁ。やぁ、やぁ、わろおちゃれ、わろおちゃれぇ。」
がんぼうらがおおけな声をだぁて笑うんじゃげな。それを聞いたどんがめは、だんだんだんだん腹が立ってかなわんようになった。とぉとぉ我慢できんようになったもんじゃけぇ、ついっ、
「うぅ、さらわれたんじゃあねえでぇ、わしゃあなんじゃ、空ぁ散歩しとるんじゃ。」
大声を出ぁてしもぉた。とたんにツルの羽を口からはなぁてしもぉたげな。
「うっわっわっわっわっわっわぁ。」
どんがみゃぁ、下へズッドーン、真っ逆さまに落ちてしもぉた。それで、せなぁ、ひどぉに打ってのぉ、ひびが入ってしもぉた。次の日、
「かめよぉ、あんた、わしがあれだけゆうたろうが。口をはなぁたらいけんでゆうて。けがぁ、せなんだったかい。」
「やあ、ツルさん。昨日はあんたにゃあ無理をゆうてすまんかったのぉ。おかげでわしが生きとる間に見ることの出来んものを見られた。ありがとぉのぉ。ありがとぉ。ありがとぉ。」
と言いながら、のっそ、のっそ、と草むらの中に消えたげな。
今でもかめの甲にひびのような割れ目があるが、ツルのせなから落ちたけぇじゃそぉな。
むかし、こっぷりこ。

紙芝居サークル
陽だまり
2013年11月26日
宮脇富子様 朗読
宮脇富子様
ご協力ありがとうございました。

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