maintop

広島県の民話

雪の中のお地蔵様

広島県三次市の話し。
むかぁし、むかし、雪深い山里にお爺さんとお婆さんが貧しいながらも仲良く暮らしておったでな。やがてお正月を迎えるのに、食べる麦も米もない。お婆さんは大切にしておった木綿の布を持ち出してきて、
「お爺さん、すまんが町へ行って、この布を売ってきてくれさらんか。」
「や、や、そりゃあ、婆さんが大事にしもぉとった布じゃあなぁか。」
「ええんよ、ええんよ。餅の1つや2つにゃなろぉてぇ。」
お爺さんは、布をせおーて出掛けました。
「おぉ寒いのぉ。こりゃあ雪になるで。布やぁ、布。布はいりませんかいの。布やぁ、布。」
お爺さんは大きな声を出して町中を売り歩きましたが、大晦日の町は足早に行き交う人達ばかりで、誰ひとーり布を買う人はいません。
「困ったのぉ。布が売れにゃあ、婆さんに餅1つもこうて帰ってやれんがのぉ。」
お爺さんは布をせおーて売り歩きましたが、とうとう疲れて道端の石に腰をおろしてぼぉんやりしておりました。そこへ笠売りが通りかかって、同じように石に腰かけて、
「お爺さん、どうされましたかいの。疲れとってのようじゃが。」
「正月が来るけぇ、婆さんの大切な布を売って、餅の1つもこーて帰ろうと思ぉたが、だぁれも振り向いてぇもらえんけ、どぉしたらええもんか思うとりました。」
「わ、わしも同じじゃ。朝はよう家を出たが、はぁ、日が暮れそうなのに笠1つ売りゃあせん。困りました。そうじゃ、お爺さん。どうせ売れんものなら、布と笠を取換えっこしませんかの。」
「そうですのぉ。」
人の良いお爺さんは、笠と布を取換えっこしました。
「ほぉ、こりゃ、ええ笠じゃのぉ。」
「それでは帰りますけぇ。お爺さん、よいお年をの。」
笠売りは布をせおーて帰りました。いつの間にかぼたん雪が、ポツポツ、と降りだしました。
「あ、こりゃ今夜は積もりそうな。はよぉ帰るとしよ。おー、よぉ降りだしたのぉ。おや、ありゃなんじゃろ。」
よく見ると、ポツボツ降りしきる雪の中、野中のお地蔵様が6つ寒そうに立っておりなさる。お爺さんは近づいて、
「お地蔵様、この雪の中、お寒ぅありましょう。明日は正月じゃに、何ひとつお供えするもの持ちませんけ、すまんことです。そうじゃ、そうじゃ。わしが、笠持っとりますけぇ、かけたげましょー。ちぃたぁ寒さもしのげましょーけ。ひとつ。ふたぁつ。みっつ。よっ。いつつ。ありゃ、ひとつ足りん。しょーがない、わしの古手拭いでもかぶってくだされ。」
お爺さんは手を合わせて、雪の中を、振り返り、振り返り帰りました。
「婆さんや、戻ったで。」
「まあ、お爺さん。寒うありましたでしょ。はよあがりんさい。」
お婆さんは、冷たいお爺さんの手をひいて囲炉裏のそばへ座りました。
「婆さんや、すまんのぉ。布がのぉ、これこれしかじかでのぉ、笠と交換してのぉ。帰りに地蔵様が寒げなかったけぇ、笠ぁ全部かけたげたんよ。」
お婆さんはにこにこ笑いながら、
「ほぉ、そーね、そーね。そりゃ、ええことされました。さ、さ、お茶が入りましたて、こぉこでも食べましょ。このたびゃ、えーがに疲れましたけぇ。」
「婆さんのつけたこぉこが一番じゃ。」
そして、早々と寝たげな。外は、ツンツンと雪が降っています。どの位してからか、何やら外がごそごそ騒がしい。
「よいしょ。よいしょ。おじじとおばばの家はどこじゃ。よいしょ。よいしょ。世話になったのぉ。達者でのぉ。」
お爺さんとお婆さんは、何事かと飛び起き障子の穴から外を覗いてみると、遥か遠く、雪明りの中をお地蔵様がつろぉてお帰りじゃ。お爺さんとお婆さんは慌てて戸を開けてみると、俵が3つ置いてある。俵からは年越しのお祝いの餅や、魚や、きれいなべべざのあふれ出とった。それでお爺さんお婆さんは、楽しいお正月を迎え、末なごぉまめに暮らしたげな。
むかし、けっちりこ。

紙芝居サークル
陽だまり
2013年11月26日
迫ヒロコ様 朗読
迫ヒロコ様
ご協力ありがとうございました。

maintop